【編集者インタビュー】講談社 文庫出版部 里村孝人さん

【編集者インタビュー】講談社 文庫出版部 里村孝人さん

ロバート・ハリス初となる長編小説「JJ 横浜ダイアリーズ」。
本作の担当編集である講談社の里村孝人さんにお話を伺いました。

講談社 文庫出版部 里村孝人さん
週刊誌の部署と文芸の部署を行き来し、文芸では、西村京太郎さん、島田荘司さんなどの編集を担当。編集者歴25年。

Q. 講談社から出版することに決まった背景
Q. 
最初にハリスさんの原稿を読んだときに感じたこと
Q. 
本が完成するまでの制作期間中、 
   最も意識したことや苦労したこと
Q. 
ずばり!この作品の魅力はココにある、というところは?

 

Q、
講談社から出版することに決まった背景


去年の夏前に、直木賞受賞作『流』(東山彰良さん)の文庫化する時に、
ロバートさんに「解説」を依頼したのがきっかけです。

 

「解説」をどなたに書いて頂くかという話になった際に、東山さんが真っ先にロバートさんのお名前を挙げられ、「間違いなくこの小説の魅力を伝えられる方なので、ぜひお願いしたい」ということで依頼しました。

 

 

はたして原稿を頂くと、長年、ラジオDJをやってきた方らしく音楽や歌など、小説内の「音」について言及されていたのが、大変珍しい視点だなと強く印象に残りました。

また、東山さんの小説家としての面に加えて、人となりを記してくださっていて。

2015
年に『流』の単行本が出版された頃に、ラジオ番組やイベントなどで複数回、東山さんと対談されていたエピソードも盛り込まれて、読み手を飽きさせない、サービス精神がある方だと感じました。

一般的に人となりについて触れると、内輪うけのようになりがちですが、そうならないように書かれていて、とてもぜいたくな解説になっているという思いでした。

 

Q、
最初にハリスさんの原稿を読んだときに感じたこと


昨年末、まったく前触れもなく、『JJ』の第1稿を頂き、
まっさらな気持ちで読みました。

ロバートさんの人生の予備知識なく読んだので、自伝的なのかな、というのが第一印象でした。

主人公が両親や祖父母のルーツを探る点では、小説として『流』と似たタイプだと。お父様のことも、不勉強ながら承知していなかったので、大変新鮮で驚かされました。

また、セクシャルなシーンに関しては、やや多めかなとも思いましたが、これも「ロバート節(ぶし)」だとする方向に。

文芸の仕事をはじめてから、小説はおろか、ドラマや映画も いち読者、視聴者として純粋に楽しんで鑑賞することが少なくなってしまっていたのですが、そんな中で『JJ』は、「仕事的な」チェックを忘れて没入できる瞬間がたくさんありました。

(具体的には、敵対するグループとの「決着」シーンや、ふたりめの女の子
(パメラ)との「恋」のやりとりなど)

P304
「で、殴り合って、決着はどうつくんだ?」モンドに聞いた。
「俺たちが勝ち越したら、奴らはお前を袋にしたことを土下座して謝る。俺らが負け越したら、お咎めなしのチャラ。それで手打ちってことだ」
「分かった。オレはもちろん、ジーターと対マンだよな?」
「もちろん。ボコボコにしてやれ」
(中略)
約束通り、4時半にYCACの裏の崖を下ったところにある空き地で彼らと対峙した。誰にも口外するなと言っておいたのに、セント・フランシスからもYO-HIからも、かなりの数のギャラリーが集まっていた。



原稿を読んだその後のお話・・・・・・・

原稿を読まれたその後は、どのように進んだのでしょうか?  


原稿を読んでみて、枚数については度外視で、世に出したいと思い、すぐ部長に最速で目を通してくれと頼み(弊社は上長の決裁を仰ぐ)部長も
「面白い!是非に」と了承を得て。

他社にもお声がけをされていると伺い、叶うならば講談社で出させて欲しいと依頼しました。

よい作品なので競合はやむなしだが 何とかして弊社から出せないかと。六本木でお食事をしながら面会しました。

結果的に、講談社から出すことをお決め頂いて、そこから実際の編集作業に入っていきました。

文字量も35万字と、かなり多かったので。


35万字だとやはり長すぎるのですか?  

このところ、分厚い小説は敬遠されるんですね。
「面白くない」という意味では決してありませんが、書店で手にとっても、レジまで持っていってもらえない傾向にある。

あるデータでは、約10年前と比べて文芸の売り上げが4割ほど減っているそうですから


今回は、『流』の単行本の担当編集者にも目を通してもらい、小説としての過不足の指摘をもらいました。
(主に「過」=やむなく多過ぎる箇所の指摘ではあったが)

これは他の小説も同じですが、世に出す前の原稿は、良い表現を二重丸つけて認める、もたつくところ(修飾過多の箇所、人物の視点のブレなど)に修整案を書き込んだりして、進めていきます。

同時に、ロバートさんの既刊『エグザイルス』や『人生の100のリスト』を読み、ロバートさんが生きてきた事実=ノンフィクションと小説=フィクションのリンクというか、重なり具合を確認しました。

 

重なり具合を確認するというのは、どういうことでしょうか?  

著者の経験や実際にあった事件などを元にした「リアルフィクション」と呼ばれるジャンルが人気を得ているのですが、それはそのジャンルに任せようと思っていまして。

今作については「小説」として「青春ストーリー」として紹介したいという
思いがあったので、ノンフィクションのテイストというか匂いというのを可能な限り少なくしたかったんです。

なので、どこまでが事実かを確認した上で、「小説として、どう伝えるか」を意識しました

 

登場人物の「占い師・京子さん」について

具体的に話すとネタばらしになってしまうのでここではお話しませんが、京子さんのエピソードは非常にファンタジー的な要素が強いので、(もちろんそういったジャンルを専門とした魅力のある作品は多数ありますが)、通常は最も削りたいところなんですね。

でも今回の場合、むしろ外せないし、こういうかたち、つまりフィクションという構造の中でうまく登場人物として、しかも黄金町という町の背景も含めて埋め込まれてしまうと「上手い! 巧みだ」という感じで(笑)

「やられた..!」と思いましたよ。ここはたまらないところでしたね。
 

 

ちなみに、表紙デザインはどのように決まったのですか?  

装幀家も深く読み込んで頂き、この作品にピタリとはまるデザインを突き詰めました。物語を最後まで読めば、この表紙の写真の意味がわかる(ご納得頂ける)と思うので、具体的な説明はしないでおきます(笑)

   

Q、
本が完成するまでの制作期間中、
最も意識したことや苦労したこと 


意識したことは、バイリンガルのロバートさんならではの、
日本語っぽくしようとした結果、やりすぎて翻訳調に読めてしまう箇所の修正で、そこは丹念にチェックしました。

全体を通して原稿のチェックは、『流』の編集をした担当者にも見てもらいながら、彼の意見も反映されています。2人で「ここはいらないかな」「ここは、はずせない、欲しい」と取捨選択を繰り返して、赤字を入れていきました。

あとは、かなり稀有な経験を積んでいるハーフの父親に(駐日大使と知り合いとか!)、眼科医の母、おそらく恵まれた環境の生徒たちが集うインターナショナルスクールに通うクオーターの主人公、横浜の街の特異性など、各パーツのオリジナル度が高いからこその魅力と、同じくらいのその「珍しさ」に寄りかからないように、それらの世界を全く知らない読者にも通じる「普遍性」を必ず脳のすみに置くようにしていました。

 

Q、
ずばり!この作品の魅力はココにある、というところは?


この作品は、メインストーリーとして主人公が性的に翻弄されるエピソードがピックアップされがちですが、、人生における出会いと別れ、恋愛だけでなく
友人関係、家族の間や師弟関係など数パターン織り込まれているので、読む人に必ずや共感する関係があると思います。

わたしが好きなシーンは、友人のひとり(松本)が日本の学校へ転校するのをなかなか言い出せず、間際になってようやく吐露するところ。

P367
松本がK高へ行ってしまうことは、ショックだった。小学校からの親しい仲間が一人、いなくなってしまうのだ。学校が変わっても友達でいようぜと松本は言っていたが、そうはいかないだろう。学校が変われば新しい友達が出来、松本は彼らと連むようになる。
(中略)
我々のようなマージナルな世界を後にして、メインストリームの日本社会の仲間入りをするのだ。松本とぼくたちはきっと、気がつかないうちに、疎遠になっているだろう。


ひとは、ひとりでは生きていけない、ただし極まれに孤独に耐えることが
出来て ひとりで生きていける人間がいる。我々はそんな風に生きてみたいと憧れたりあきらめたり時には畏怖する。「個」と「集団」の間で悩みゆれて、それぞれの道を見つけていく__ 
そんな物語です。

 

 

 


読者の方からの感想を一部ご紹介 

40代女性の感想)
たくさん出てくる小説や映画の話も、ともすると、ペダンチックというか スノッブな感じになるのに、セックスとかとかケンカの話などとあいまって、全体的に絶妙なバランスとなっていて、品の良さにつながっていますよね。何よりも、そうした「育ちの良さ」みたいなものが通貫してるのが、大きな強みなのかなぁと思いました。戦前戦中戦後史の要素も入っている上、変態っぽいスパイスも利いていて、いや〜、本当に驚いてしまいました!

1960年代前半が舞台なので、とかくノスタルジーを感じるアラフィフの男性が読者の中心かと思いきや、主人公のJJをキュートに思える年上女性の読者が予想を超えています。この世代から、引き続き、JJを応援するムーブメントがおきはじめているはずです。


 


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TextTamura Mayo